TOP > 買手#021
Answer
前編に引き続き、進行期の調査を行う上で意識しておきたいポイントを解説します。前編では、大きな変化点が無いか、期中現金主義会計を行っている場合の留意点、期中概算計上・期末精算仕訳を行っている場合の留意点の3項目を解説しました。後編では、収益や費用の「期ズレ」についてQ&A形式で解説していきます。
Q1:前期に計上すべき収益や費用の「期ズレ」について簡単に教えてください。
A1:「期ズレ」とは、本来計上すべき収益や費用が、正しい期に計上されておらず、その計上時期が前後にズレることを言います。例えば、3月決算の卸売業のDDにおいて、売上の計上基準が出荷基準(商品を出荷した日に売上を計上するルール)であったとします。X1年4月出荷分は、本来、X1年3月期ではなく、X2年3月期に売上計上するのが正しい処理となりますが、それがX1年3月期に計上されてしまっていた場合、「期ズレ」が生じていることとなります。
Q2:期ズレにはどのような問題点がありますか?
A2:収益や費用の期ズレが生じると、正しい損益を把握することができなくなります。Q1の事例の場合、商品の売上は誤ってX1年3月期に計上されてしまったが、売上原価は翌期のX2年3月期に正しく計上しているような場合、X1年3月期の売上総利益は本来正しい売上総利益よりも大きな額になり、逆にX2年3月期の売上総利益は小さくなります。
例
■正しい会計処理
| X1年3月期 | X2年3月期 | |
| ①売上 | 100 | 150 |
| ②売上原価 | 80 | 120 |
| ③売上総利益(①-②) | 20 | 30 |
| ④売上総利益率(③÷①) | 20% | 20% |
■誤った会計処理
X2年3月期に計上すべき売上30をX1年3月期に計上してしまった場合
| X1年3月期 | X2年3月期 | |
| ①売上 | 130 | 120 |
| ②売上原価 | 80 | 120 |
| ③売上総利益(①-②) | 50 | 0 |
| ④売上総利益率(③÷①) | 38% | 0% |
Q3:どのようにして期ズレの有無を把握すれば良いですか?
A3:「証憑との突合」、「財務分析」、「修正仕訳、反対仕訳の確認」により把握することができます。
Q4:「証憑との突合」とは?
A4:一番大元の書類と、会計処理の一致を確認する事を言います。例えば、売上を計上する際の出荷伝票等の書類と、会計帳簿の売上計上の日付、金額が一致しているかを確認する作業です。
Q5:「財務分析」とは?
A5:財務分析とは、財務諸表を様々な視点から分析する手法を言います。例えばQ3の事例であれば、売上総利益率の推移を確認することで把握することができます。正しい会計処理であれば、適正な売上総利益率は20%ですが、誤った会計処理の場合、明らかに異常値になっています。
Q6:「修正仕訳、反対仕訳の確認」とは?
A6:修正仕訳とは、前期に計上した仕訳を、当期に修正するための仕訳を言います。反対仕訳とは、前期に計上した仕訳を、当期に貸借逆の仕訳を計上することで、取り消す仕訳を言います。進行期の会計帳簿を確認し、通常計上すべき仕訳と貸借逆の仕訳、不自然な勘定科目での仕訳が計上されていないか。摘要欄に「修正」や「取り消し」といったコメントが無いか、といった視点で確認を行います。
例
■修正仕訳
X1年3月期に売上30を計上したが、正しくは20であった場合の
X1年3月期
借方 売掛金 30 貸方 売上 30
X2年3月期
借方 売上 10 貸方 売掛金10
■修正仕訳
X1年3月期に売上30を計上したが、正しくは「計上無し」であった場合
X1年3月期
借方 売掛金 30 貸方 売上 30
X2年3月期
借方 売上 30 貸方 売掛金30
……………………………………………………
本稿は、中小企業のM&Aにフォーカスし、わかりやすく解説するために、専門用語ではない表現を用いている部分があります。また、網羅性を排除して一般的な内容のみに限定して解説している箇所がございますので、予めご了承ください。
……………………………………………………
公開日 2025年8月27日
執筆者 アクタス税理士法人 シニアパートナー 税理士・中小企業診断士 丸山貴弘
アクタス税理士法人M&Aチームのご紹介
アクタスでは、このQ&Aのようなノウハウを持った専門家が、「わかりやすさ」を第一に、M&A戦略の検討(Strategy)〜対象会社の調査(DD)・企業価値評価(Valuation)〜実行後の支援(PMI)までご支援します。ご予算に応じて部分的なご支援も可能です。初回のご相談は無料で対応させて頂きますので、何かお困りのことがあれば下記お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。