TOP > 売手#004
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高齢のオーナー経営者の悩みの一つとして、「引退したいけれど、従業員や取引先のことを考えると、なかなか行動に移せず、今も経営を続けているが、今後が心配。」というお話をよく耳にします。今後、オーナー経営者の身に何かあり、経営ができなくなってしまった場合、従業員の雇用が失われ、取引先にとっても少なからず影響が生じます。オーナー経営者が引退を考えた場合、会社の廃業だけでなく、株式の売却という選択肢も含めて検討することが望まれます。本稿では、会社の清算と、株式売却の違いを解説します。
Q1:私は中小企業のオーナー経営者ですが、後継者がおらず、私自身が高齢ということもあり、そろそろ引退したいと思い、会社を廃業しようと考えています。ただ、従業員や取引先の今後が心配で、なかなか踏み切れません。どうすれば良いでしょうか?
A1:会社清算の他、株式を売却するという選択肢もあります。両社の違いをご確認頂いた上で、検討されると良いと思います。
(1)清算とは、会社を廃業する手続きです。会社自体が消滅しますので、従業員は解雇となり、取引先との契約関係も消滅します。
(2)株式売却とは、オーナーが持つ株式を他者へ売却する手続きです。株主が変わるだけで、会社自体は存続しますので、従業員との労働契約や、取引先との契約もそのまま継続します。
Q2:会社の清算は、どのようなプロセスで進めるのでしょうか?
A2:会社法上の定めに基づき、まずは会社を解散し、事業活動を辞めて、法人が持つ資産負債を処分する手続きに入ります。債権を回収し、所有する資産は売却等により現金化し、債務を弁済します。そして、残った財産を株主に分配します。これを残余財産の分配と言います。全て完了したら、会社法上の手続きを経て清算結了の登記を行い、会社が消滅します。この過程の中で、法務、会計、税務上の手続きがそれぞれ必要になりますので、専門家への依頼が一般的です。最短でも、解散決議~清算結了までに3ヶ月弱は要します。
Q3:株式売却は、どのようなプロセスで進めるのでしょうか?
A3:通常の株式の売買取引ですので、買手を選定し、デューデリジェンス(買手側が当社を調査すること)を受け、交渉を行い、売買契約を締結します。こうして記載すると、簡単に見えますが、清算と違い、相手方との交渉事になりますので、やはりオーナー経営者として対応すべき業務は多岐にわたります。一般的に、株式売却の検討~完了するまでに半年から1年は要します。
Q4:当社の売上規模は小さく、利益も出ていないので、売却できないと思うのですが?
A4:買手側の目線からは、貴社の売上、利益や資産負債だけでなく、技術力、ノウハウやブランド、業歴、従業員、取引先との関係、許認可といった、要素が魅力に映ります。ご自身では気づかない点も多くあるかと思いますので、一度、公的機関、金融機関、M&A仲介会社、士業専門家など、M&Aを取扱う支援機関にご相談されてみては如何でしょうか。初回の相談であれば、直近3事業年度分の税務申告書、決算書を準備すれば十分に対応してもらえます。
Q5:ありがとうございます。売却も検討してみます。最後に、清算と株式売却で、税務上の取り扱いに違いはあるのでしょうか?
A5:大きく違いがあります。まず、清算について、資産負債を処分する過程で生じた売却益等の所得に対して法人税が課税され、消費税の課税売上が生じる場合は、消費税が課税されます。そして、残余財産の分配に際しては、株主が個人であれば、配当所得として、給与所得や不動産所得等と合算した所得に対し、所得税・住民税が課税されます。超過累進税率により、課税される所得金額が4,000万円以上の部分については、最高税率55.945%が適用されます。次に、株式売却ですが、売却額と取得費(通常は資本金として出資した金額)との差額(売却益)に対し、他の所得と分離して一律20.315%で所得税・住民税が課税されます。清算と株式売却、どちらが、手残りが多くなるかは、実際の金額を置いてシミュレーションが必要となりますが、一般的には、金額が大きくなればなるほど、株式売却の方が有利になることが多いです。
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本稿は、中小企業のM&Aにフォーカスし、わかりやすく解説するために、専門用語ではない表現を用いている部分があります。また、網羅性を排除して一般的な内容のみに限定して解説している箇所がございますので、予めご了承ください。
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公開日 2023年11月8日
執筆者 アクタス税理士法人 シニアパートナー 税理士・中小企業診断士 丸山貴弘
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