TOP > 買手#010
Answer
前編に引き続き、DD(デューデリジェンス:以下DD)について解説します。
Q1:いつ、 DDを実施すれば良いのですか。
A1:売手側(買収候補企業やその株主)と、これからM&Aの交渉を進めていくことについて合意した後、DDを実施します。私達、日常の人間関係でも、初対面の相手のことをいきなり根掘り葉掘り聞くと、引かれてしまいますよね。ある程度打ち解けた段階で、プライベートな話をするのが普通かと思いますが、M&Aも考え方は同じです。
一般的なM&Aのプロセスでは、最初は売手側から提出される企業概要書に記載された情報を基に、買収候補とするかどうかを検討します。この段階では、未だDDは行いません。売手の立場からしてみれば、買ってもらえるかどうか判らない相手に自社の機密情報を開示することには抵抗がありますし、買手側からしても、まだ買うかどうか判らない段階で詳細な調査をしても、時間とコストの無駄になる恐れがあるためです。
買手側が「この企業の買収を検討したい」と思ったら、実際に売手側との話し合いをスタートすることになります。実務上は、意向表明書や基本合意書により、調査範囲やスケジュールを決めた上で、DDをスタートします。
Q2: DDにはどのような種類がありますか?
A2:中小M&Aで一般的に実施されるDDを一覧にまとめました。
名称 | 主な調査項目 | 一般的に誰が実施するか |
事業DD(ビジネスDD) | ビジネスモデル全般の調査。強みと弱み・機会と脅威の把握、外部環境・内部環境の調査、主要な売上先や仕入先、キーパーソン、事業計画書の妥当性、買手側とのシナジー効果の確認等が主な調査項目。 | 買手側経営者や経営企画部が自ら実施することが多い。外部専門家に依頼する場合は戦略系コンサルタント、中小企業診断士。 |
財務DD | 財務・会計・税務に関する調査。実態純資産や正常収益力の確認を行う。買収スキームについて、会計、税務面からの検証も行う。財務DDの調査結果を基に株式価値・事業価値の算定を行う。 | 公認会計士、税理士、会計系コンサルタント |
法務DD | 各種法律の観点から、取引先との契約や不動産賃貸契約等を確認し、M&A実施による影響を確認する。また、事業に必要な許認可の調査や、対象企業の適正な株主の把握や、買収スキームについて、法務面からの検証も行う。 | 弁護士、行政書士、法務系コンサルタント |
人事労務DD | 人事制度や各種労働法規に関する調査。簿外債務である未払残業代や退職給付債務を調査する。買収後の従業員の処遇、人事制度に関するアドバイザーの役割も担う。 | 社会保険労務士、人事系コンサルタント |
不動産DD | 不動産に関する所有関係やリスクの調査、時価の算定を行う。 | 不動産鑑定士 |
IT DD | システム構成、運用保守の確認やセキュリティに関するリスクを調査する。 | システム系コンサルタント |
DDは買手側の希望により実施するものであり、義務ではありません。極論ですが、買手側が買収後に生じ得るリスクを受け入れる場合は、DDを実施する必要は無いということになります。
どの項目のDDを実施するか、調査範囲をどうするかは、買手側が決めます。全ての完全な情報を手に入れて、その情報の中での意思決定が理想的ではありますが、時間とコストが膨大にかかります。中小M&Aは買収規模がそこまで大きくないので、DDに時間とコストを掛け過ぎるのは得策ではありません。買手が許容できるリスクとできないリスクを明確にした上で、調査範囲の限定、重要性が小さい部分は除外するといったコントロールや、分割や事業譲渡といったスキームの工夫等を行うといった、買収規模や期待リターンに見合ったDDの実施が肝要です。
……………………………………………………
本稿は、中小企業のM&Aにフォーカスし、わかりやすく解説するために、専門用語ではない表現を用いている部分があります。また、網羅性を排除して一般的な内容のみに限定して解説している箇所がございますので、予めご了承ください。
……………………………………………………
公開日 2023年12月11日
執筆者 アクタス税理士法人 シニアパートナー 税理士・中小企業診断士 丸山貴弘
アクタス税理士法人M&Aチームのご紹介
アクタスでは、このQ&Aのようなノウハウを持った専門家が、「わかりやすさ」を第一に、M&A戦略の検討(Strategy)〜対象会社の調査(DD)・企業価値評価(Valuation)〜実行後の支援(PMI)までご支援します。ご予算に応じて部分的なご支援も可能です。初回のご相談は無料で対応させて頂きますので、何かお困りのことがあれば下記お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。
M&Aコンサルタント募集のご案内
アクタスでM&Aコンサルタントとして活躍してみたい!というご意向がある方は、下記のアクタス応募採用フォームまでご応募ください。税理士事務所経験者、監査法人経験者、金融機関経験者、コンサルティングファーム経験者など、多彩な経歴のメンバーを募集しています。