TOP > 買手#013
Answer
M&Aによる買収スキームは、タイトルに挙げた株式売買、事業譲受の他、合併、分割等、様々な手法が存在します。どのスキームを採用すべきかどうかはケースバイケースですので、案件に応じて専門家の意見も参考にしつつ、売手と買手の協議により決めていきます。 本稿では、多くの中小M&Aスキームとして用いられている「株式売買」と「事業譲受」について、それぞれのメリットデメリットを踏まえて解説していきます。
Q1:「株式売買」と「事業譲受」の違いは何ですか?
A1:2つあります。1つ目は売手となる当事者の違い、2つ目は売買対象の違いです。株式売買とは、買手(当社)と、売手(買収対象会社の株主)との間で買収対象会社株式の売買を行う取引です。買手は、買収対象会社の株式を取得し、売手に対して対価を支払います。実行後には、買手(当社)が親会社、買収対象会社が子会社となります。 事業譲受とは、買手(当社)と、売手(買収対象会社)との間で買収対象事業の売買を行う取引です。買手は、買収対象事業を取得し、売手に対して対価を支払います。
中小M&Aでは、一般的に、株式売買が多く用いられています。
(ご参考)売手側の目線では、株式売却の場合、対象会社の株主が対価を得て、株主に課税が生じます。例えば株主が個人の場合、売却益に対して約20%の所得税等が課されます。一方、事業譲渡の場合、対象会社自身が対価を得て、対象会社に課税が生じます。対象会社は売却益に対して約30%の法人税等が課されます。また、消費税の課税事業者の場合、株式の譲渡は非課税売上となり、課税売上割合の計算上、分母に譲渡価額の5%を加える必要があります。
Q2:なぜ、中小M&Aで株式売買が多く用いられているのですか主なメリットを教えてください。
A2:株式売買のメリットとして「(1)対象会社の契約関係を包括的に引き継ぐことができる」、「(2)売手の持分を一部残す場合等の比率調整が容易」「(3)繰越欠損金の引継ぎが可能」があり、特に(1)のメリットが非常に大きいためです。
Q3:「(1)対象会社の契約関係を包括的に引き継ぐことができる」について、詳しく教えてください。
A3:株式売買の最大のメリットは、法的手続きが事業譲受に比べて簡単という点です。対象会社にとっては株主が変わるのみであり、原則、対象会社の資産負債や、契約関係等に影響を及ぼすことはありません(CofC条項がある場合等、影響が生じる場合もある)。従い、株式売買契約だけで、そのまま子会社として対象会社の事業を取得、継続させることができます。
一方、事業譲受の場合、資産、負債、契約及び許認可等を個別に移転させるため、債権債務や雇用関係を含む契約関係を、一つ一つ、契約の相手方や債権者、従業員の同意を取り付けて切り替えていかなければならず、譲渡する資産の中に不動産を含むような場合には登記手続も必要となります。また、許認可等は譲り受け側に承継されないことも多く、その場合には譲り受け側で許認可等を新規に取得する必要があります。
Q4:「(2)売手の持分を一部残す場合等の比率調整が容易」について、詳しく教えてください。
A4:M&Aでは、全ての株式を100%売買するだけではなく、売手の持分を一部残すといったこともあります。株式売買であれば、買収する株式比率(株数)を取り決めるのみで、買収後の持株比率を調整することができます。事業譲受の場合、会社分割や新会社の設立等の方法を用いる必要があり、スキームが複雑になります。
Q5:「(3)繰越欠損金の引継ぎが可能」について、詳しく教えてください。
A5:こちらは、法人税法上のメリットです。買収対象会社に繰越欠損金(税務上の過年度の累計損失)がある場合、株式売買の後も、そのまま買収対象会社が繰越欠損金を有することになるため、その後の事業年度の所得に対し、繰越欠損金を活用することが可能です。但し、法人税法上、買収した欠損等法人に係る租税回避防止規定が設けられており、欠損金の活用や含み損資産の売却損制限規定に該当しないかどうかの精査は必須です。事業譲受の場合は、欠損金を引継ぐことはありません。また、譲り受ける資産負債は取得時の時価により貸借対照表に計上しますので、含み損益を引継ぐこともありません。
後編に続きます。
Follow @ActusMA……………………………………………………
本稿は、中小企業のM&Aにフォーカスし、わかりやすく解説するために、専門用語ではない表現を用いている部分があります。また、網羅性を排除して一般的な内容のみに限定して解説している箇所がございますので、予めご了承ください。
……………………………………………………
公開日 2024年8月5日
執筆者 アクタス税理士法人 シニアパートナー 税理士・中小企業診断士 丸山貴弘
アクタス税理士法人M&Aチームのご紹介
アクタスでは、このQ&Aのようなノウハウを持った専門家が、「わかりやすさ」を第一に、M&A戦略の検討(Strategy)〜対象会社の調査(DD)・企業価値評価(Valuation)〜実行後の支援(PMI)までご支援します。ご予算に応じて部分的なご支援も可能です。初回のご相談は無料で対応させて頂きますので、何かお困りのことがあれば下記お問合せフォームよりお気軽にご連絡ください。
M&Aコンサルタント募集のご案内
アクタスでM&Aコンサルタントとして活躍してみたい!というご意向がある方は、下記のアクタス応募採用フォームまでご応募ください。税理士事務所経験者、監査法人経験者、金融機関経験者、コンサルティングファーム経験者など、多彩な経歴のメンバーを募集しています。