TOP > 買手#012
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前編に引き続き、DD(デューデリジェンス:以下DD)のスコープ、つまり買収対象会社の調査範囲や深さをどのように定めれば良いのか?がテーマです。限られた時間と予算の中で、重要性の高い部分に調査範囲を絞るためには、1.M&Aの目的、2.買収スキーム、3.買手側のリスク許容度、4.買収対象会社の業種、5.関係者に対する説明責任、6.DDのスケジュール及び予算といった視点が大切になります。後編では、3~6を解説します。
Q1:視点3「買手側のリスク許容度」がどのようにスコープに影響を及ぼすかを教えてください。
A1:DDは買手側の希望により、必要に応じて行うものですので、買手側が潜在的リスクを許容できる場合は、調査範囲を限定した簡易DDとすることもあります。例えば、買収対象会社の業種業態を熟知しており、潜在的なリスクもある程度想定できる場合や、買収規模が小さく、リスクが顕在化しても買手側が受けるインパクトが小さいと想定される場合は、綿密なDDを実施せず、調査範囲や深度を限定して簡易DDとすることもあります。また、ある程度の金額基準を定めて、金額的重要性が高い部分のみにスコープを絞る場合もあります。ただし、買収額の大小と、潜在的リスクの大小は必ずしも一致しませんので、DDスコープを絞る場合は、慎重な判断と各関係者間での認識の摺合せが望まれます。
Q2:視点4「買収対象会社の業種」がどのようにスコープに影響を及ぼすかを教えてください。
A2:この視点は、調査項目に強弱を付ける際に特に有効です。例えば、買収対象会社が小売業であれば、棚卸資産の実在性や滞留在庫、顧客や製品毎の損益、販売後のクレーム、製品保証等が重要論点となります。買収対象会社が労働集約型産業であれば、キーパーソンとなるスタッフの把握や、未払残業代等の労働債務の確認が重要になります。このように、買収対象会社の業種に応じて重要性の高い調査項目に重点を置くことで、より、効果的にDDを行うことが可能になります。
Q3:視点5「関係者に対する説明責任」がどのようにスコープに影響を及ぼすかを教えてください。
A3:買手が、非上場のオーナー会社(株主=社長)であり、買収資金は全額自己資金で賄う場合は、通常、DDレポートは社内の意思決定のためだけに利用されます。一方で、例えば買収資金用として金融機関から融資(LBOローンと言います)を受ける場合は、金融機関側で融資の実行可否を判断するために、買収対象会社の詳細を金融機関に説明する必要がありますので、ここでもDDレポートが活用されます。他にも、社長以外の外部株主がいる場合や、重要な取引先への説明が必要となる場合など、関係者へM&Aの実施に関する詳細説明が必要となる場合は、その説明責任度合に応じた範囲、深度のDDが求められます。
Q4:視点6「DDのスケジュール及び予算」がどのようにスコープに影響を及ぼすかを教えてください。
A4:これはイメージ付きやすいと思いますが、DDは時間とコストを投じれば、当然、広く、深く調査が可能となりますので、その分得られる情報量が増え、検出されるリスクの正確性も高まります。しかしながら、売手又は買手の希望により、クロージングまでのスケジュールがタイトである場合、必然的に調査期間も短くなりますので、DDスコープを絞ることも検討する必要があります。また、小規模なM&Aでよく生じる事例として、買手側の予算に限りがある場合、最低限のDDを行う場合もあります。いずれの場合においても、調査を開始する前に、DDの調査を担当する各専門家と綿密な打合せを行い、適切に調査範囲を取り決めることが望まれます。また、可能であれば法務DD、財務DD、人事DD等の各DDを担当する専門家を集めてキックオフミーティングを行い、各専門家の調査範囲が重複することの無いように調整することで、ムダを省き、効率的な調査が可能になります。
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本稿は、中小企業のM&Aにフォーカスし、わかりやすく解説するために、専門用語ではない表現を用いている部分があります。また、網羅性を排除して一般的な内容のみに限定して解説している箇所がございますので、予めご了承ください。
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公開日 2024年5月2日
執筆者 アクタス税理士法人 シニアパートナー 税理士・中小企業診断士 丸山貴弘
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