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財務DDにおける最重要項目と言っても過言ではない正常収益力。前編では、正常収益力を計算する上で欠かせないEBITDAを中心に解説していきます。
Q1:正常収益力とは何ですか?
A1:正常収益力とは、企業が通常の営業活動を通じて安定的に得られる収益力のことを言います。一言で言えば本業の実力です。
Q2:正常収益力はどうやって計算するのですか?
A2:正常収益力の計算については、画一的な決まりや会計基準がある訳ではなく、各個別案件ごとに最適な計算方法の検討を行うべきですが、一般的には次の手順で計算を行います。
1.対象会社の損益計算書を基に、EBITDAを計算する
2.調査対象期間中の会計基準、会計処理の方針を統一する
3.調査対象期間中の事象を把握し、必要に応じて調整する
4.EBITDAに含まれる一時的、非経常的な損益を加減算する
5.会計上、特別損益項目に計上されているが、実質的には経常的な損益を加減算する
6.M&Aの実行により変化する損益項目を加減算する
Q3:「1.対象会社の損益計算書を基に、EBITDAを計算する」について教えてください。
A3:まずは、過年度の損益計算書を3~5期分程度入手し※1、その損益計算書からEBITDAを計算します。EBITDAとは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略称であり、税引前当期純利益±特別損益+支払利息+減価償却費の算式※2で計算します。対象期間3~5期分のEBITDAの平均値を算出するだけでなく、直近事業年度の比重が重くなるように傾斜を掛けるべきか、或いは直近事業年度の数値のみを使うべきか等の検討が必要となります。
※1将来の損益計画が作成されている場合は、その計画を基に正常収益力を計算する場合もあります。
※2営業利益や経常利益から計算する場合もあります。
Q4:正常収益力の基礎としてEBITDAを用いるのはなぜでしょうか?
A4:税制や借入金利、減価償却費等の変動要素を排除することが出来るためです。特に営業外費用に計上される支払利息は、対象会社の資金調達策が資本か借入かによって金額に大きな差が生じますが、本業の実力には影響させる必要がないため、その要素を排除します。また、定率法で減価償却を行う場合、設備投資を行ってすぐの事業年度では減価償却費が多額に計上されますが、耐用年数の後半では減価償却費が少なくなります。こういった変動要素を排除するために、EBITDAが用いられます。EBITDAを用いることで、複数の企業の比較も容易になります。
Q5:「2.調査対象期間中の会計基準、会計処理の方針を統一する」について教えてください。
A5:殆どの非上場の中小企業は会計監査を受けていないため、入手した調査対象期間中の損益計算書3~5期分を比較すると、会計基準が統一されていない場合や、会計処理方針が途中で変わっている場合、経理処理にミスがある可能性もあります。財務DDを通してそれらの有無を確認し、調査対象期間中に変化があれば、最新の会計基準、会計処理の方針に過年度の損益計算書を修正すべきかどうかを検討する必要があります。
Q6:「3.調査対象期間中の事象を把握し、必要に応じて調整する」について教えてください。
A4:これは、事例をお伝えした方が判りやすいので、よくあるケースでご説明します。例えば、小売業の対象会社で、調査対象期間中にある店舗を閉店したとします。この場合、閉店前の事業年度のEBITDAは、過去の正常収益力を示す数値としては正しいものの、既に閉店した店舗の損益が含まれてしまっている事から、今後の正常収益力としては適切ではありません。この場合、閉店した店舗から生じる売上や費用を除く等の調整が必要になります。このように、調査対象期間中に生じた出来事を、財務DDを通して把握し、正常収益力の計算上、調整すべきかどうかを検討する必要があります。
後編に続きます。
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本稿は、中小企業のM&Aにフォーカスし、わかりやすく解説するために、専門用語ではない表現を用いている部分があります。また、網羅性を排除して一般的な内容のみに限定して解説している箇所がございますので、予めご了承ください。
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公開日 2024年9月24日
執筆者 アクタス税理士法人 シニアパートナー 税理士・中小企業診断士 丸山貴弘
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