TOP > 買手#014
Answer
前編に引き続き、「株式買収」又は「事業譲受」について、それぞれのメリットデメリットを踏まえて解説していきます。後編は主に「事業譲受」の内容になります。
Q1:買手目線で、事業譲受の主なメリットを教えてください。
A1:「(1)取得する資産負債の範囲を限定できる」「(2)簿外債務引継ぎリスクを回避できる」「(3)資産調整勘定の損金算入が可能」の3点が挙げられます。
Q2:「(1)取得する資産負債の範囲を限定できる」について、詳しく教えてください。
A2:株式の取得では、対象会社を丸ごとそのまま取得するのに対し、事業譲受は、対象事業に係る資産負債を個別に選択し、取得します。従い、対象会社が複数の事業を営んでいる内の一部事業のみを買収したい場合や、不要な資産を引き継ぎたくない場合に、柔軟に資産負債の範囲を設定することが可能です。
Q3:「(2)簿外債務引継ぎリスクを回避できる」について、詳しく教えてください。
A3:Q2の内容と若干重複しますが、事業譲受は取得する資産負債の範囲を限定することが可能ですので、貸借対照表に表示されていない債務(簿外債務)を引継ぐことはありません。 株式売買による取得の場合、未払残業代等、貸借対照表上の数字には表れない簿外債務や、紛争に関する損害賠償債務等、現時点では未発生だが将来的に発生し得る偶発債務もそのまま引き継ぐことになります。例えば、デューデリジェンスの結果、買収対象会社に重要な簿外債務が存在する可能性が高い場合に、買収スキームとして、株式買収ではなく、事業譲受とする場合があります。また、小規模なM&Aの場合等、デューデリジェンス予算を確保することができない場合にも事業譲受が有効策となり得ます。
Q4:「(3)資産調整勘定の損金算入が可能」について、詳しく教えてください。
A4:こちらは、法人税上のメリットです。買収対象事業の資産負債の時価と、実際の買収額との差額が、法人税法上、5年均等償却で損金の額に算入できますので、株式の取得と比べて節税効果があります。
例えば、買収対象事業の資産負債の時価が100の場合において、売手との協議の結果、その事業を120で買収するとします。この場合の120-100=20は、法人税法上「資産調整勘定」と言い、5年間均等償却で損金算入となります。なお、会計上はこの20が「のれん」となり、日本の会計基準上、20年以内のその効果の及ぶ期間で定額法その他の合理的な方法により償却します。株式売買の場合、120が株式の取得価額となり、一定の場合を除き(参考:国税庁HP No.5574 有価証券の評価損が認められる場合|国税庁 (nta.go.jp))、売却等の事実が生じるまでは損金の額に算入することはできません。
Q5:最後に、株式売買と事業譲受の消費税上の取り扱いについて簡単に教えてください。
A5:株式売買は消費税の非課税取引となります。事業譲渡譲受は、売買対象となる資産の種類に応じて、課税取引、非課税取引となります。のれんの売買も課税対象取引です。
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本稿は、中小企業のM&Aにフォーカスし、わかりやすく解説するために、専門用語ではない表現を用いている部分があります。また、網羅性を排除して一般的な内容のみに限定して解説している箇所がございますので、予めご了承ください。
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公開日 2024年8月5日
執筆者 アクタス税理士法人 シニアパートナー 税理士・中小企業診断士 丸山貴弘
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